ビジネスパーソンの仕事脳をつくる食事 ~カギは血糖コントロール~
あらゆるものがスピード化する時代。私たちの脳も正確でタフな動きが求められています。一流のビジネスマンが脳疲労やストレスを解消し、最高のパフォーマンスを維持するために注目しているのは「食事」。
大事なプレゼンで、ぼんやりしてうっかりミスをしたり、精神力が低下するなどということも食べ物に注意すれば避けられるかもしれません。食事は人の肉体的、感情的な健康状態に影響することがわかっています。ではどのように脳のコンディションを上げればいいのでしょう。
時間がないとランチを抜く人よりも、しっかり定食を食べている人の方がアクティブ。さらに、デスクで食べ物片手に残業している人よりも、サッと仕事を切り上げて帰る人の方がなぜか出世していたりする。もちろん、要領の良さもあるでしょうが、実は食事が関係しているかもしれません。
脳のパフォーマンスを上げるカギは血糖コントロール
脳は子宮の中にいるときに形成され、幼年期以降も成長を続けます。脳の成長と発達には十分なエネルギーとある種の脂肪とタンパク質などが必要です。新生児期にかなりの低栄養状態であった子供を7年間追跡調査した結果、知能指数に著しい低下が認められたという報告もあります。1)2)
そして、成人した私たちの脳にある1000億個の神経細胞は、食事を摂ることによって活動できるよう保たれています。脳は体重の2%しか占めませんが、体の代謝のエネルギーの20%を使っています。筋肉と違って脳は糖(グルコース)を貯蔵できないため、常に供給される必要があります。例えば、空腹のために血糖値が低くなると集中力が低下し、さらに絶食により糖(グルコース)が枯渇すれば、脳はエネルギーを得るために、体脂肪の分解からつくられる「ケトン体」を使わなければならなくなります。ケトン体を代謝する過程には、一連の特別な酵素が必要なため、その合成に時間がかかり集中力がさらに低下してしまいます。この状態では、正確でスピーディーに仕事をこなすのは困難でしょう。
最近耳にする「血糖値スパイク」も精神機能に影響すると考えられています。糖質を摂った後、血糖値が急上昇、すると膵臓はこれを下げようと多量のインスリンを分泌するため、血糖値が急降下する。「血糖値スパイク」は仕事中の眠気、集中力の低下、空腹感、疲労感を招く原因となることがあります。
多くの人が日常的に行っている「疲れたら甘いもの」「エナジードリンクや栄養ドリンクで多忙を乗り切る」「空腹で集中力を高める」これらは仕事にとってマイナス要素だったのです。
脳が最もよく働くのは血糖値が安定している時なのです。
どのように食べるか
ショ糖(砂糖)などの単純な糖は血糖を急上昇させるため、インスリンが反応して血糖値が再び下降します。つまり血糖値の安定時間は短いのです。
これに対して、全粒粉のパンや豆類、野菜といったデンプンと食物繊維を含む食品は、消化吸収に一定の時間がかかるため、血糖値の安定時間も長くなり、脳のコンディションを安定させられます。また、炭水化物と一緒にたんぱく質も摂ると、血糖値の急激な上昇を抑えられるため腹持ちもよくなります。
大事なプレゼン前、血糖値を安定させるためのランチ選びのポイントは、炭水化物はやや少なめ(主食以外の炭水化物は控える。炭水化物だけのメニューを選ばない。糖分を含む飲み物やデザートを控える)、野菜やタンパク質のおかずをセットに食べ、眠気を防ぐために腹八分目にして胃に過度な負担をかけないようにすれば、集中力を切らさずこなせるでしょう。
食事リズムを整える
血糖値を一定にコントロールするために気をつけたいのが、食事のタイミングです。成果を上げるハイパフォーマーは、生活に合った食事リズムをみつけています。
朝はギリギリまで寝ていて「時間がない」から朝食を食べない、とよく耳にします。これは、前夜の過ごし方が影響していることが多いです。残業で夕食はデスクでカップスープと栄養補助食品くらい。また、飲みに行けば揚げ物や味の濃いつまみを食べ、しめはラーメン。仕事をしながら口にできるもので夕食を済ませていたら、栄養不足によって疲労回復が遅れ、寝る直前の飲酒や高脂肪食の摂取は、睡眠の質を下げ、消化吸収に影響し、翌朝の食欲低下につながってしまいます。
朝食には、寝ている間に消費したエネルギーを補充し、脳を活性化させることで身体を目覚めさせ、睡眠中に低下した体温を高め、太りにくい体をつくるなど生活リズムを整える効果があります。また、朝ご飯には、栄養補給以外に「噛む」という行為によって脳に刺激を与え、脳の血流を増加させる効果もあります。単に咀嚼するという行為だけで記憶力が高まることを示した興味深い報告もあります。何も噛んでなかった人よりも、ノンシュガーガムを噛んでいた人の方が、単語をよく記憶できた。記憶にとって重要な脳領域への血流がアップするからだろうと考えられるのです。
上手に間食を挟む
空腹状態が長く続くと、ドカ食いや血糖値が急上昇しやすい甘いものが食べたくなります。間食は「何をたべるか」「タイミング」「量」を意識すれば血糖値を一定に保ち、能力の一時的低下を抑制して仕事の効率アップにつなげることができます。
コンビニで買うなら、バナナやヨーグルト、干し芋、甘栗、高カカオ配合チョコレート、ドライフルーツ入りのナッツ類(まわりに油や食塩のコーティングがないもの)もいいですね。ナッツ類は食物繊維が豊富な上、血管を良好に保ち、血液の流れをよくするビタミンEや糖質をエネルギーに変えるビタミンB1が豊富。なかでもアーモンドと落花生はタンパク質含有量が比較的多いため、腹持ちもよいのでおすすめです。
夕食が遅くなりそうなら、ツナサンドや枝豆としらす入りおにぎりなど、炭水化物とたんぱく質を組み合わせたものを選び、夕食は軽めにすれば、翌朝すっきり目覚められ、朝食も摂れて良い一日のスタートを切れるでしょう。
一流といわれるビジネスパーソンは食事にも興味をもち、仕事に役立てる考え方をもっています。健康診断で引っかかってもいつものこととあきらめていないでしょうか?1日3回、1年にとる食事の回数は約1000回。この回数の食事を、ただ漫然と栄養補給するためのものにしてしまうか、仕事のパフォーマンスアップを図るためのチャンスにするか。それは、あなた次第です。
担当管理栄養士:中川洋子
参考文献
・川端理香,仕事のパフォーマンスが劇的に上がる食事のスキル50,かんき出版(2018)
・鹿児島昌樹,食の未来 地中海食からゲノム編集まで,㈱日経サイエンス(2017)
・小野瀬健人,脳とココロ,㈱かんき出版(2003)
・脳の発達と栄養障害,山上栄
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn1969/4/1/4_1_7/_pdf(20181014閲覧)
1)Stoch M B, Smythe P M : Does undernutrition during infancy inhibit brain growth and subsequent intellectual development ?
Arch Dis Child 38 : 546-552, 1963
2)Stoch M B, Smythe P M : The effect of undernutriton during infancy on subsequent brain growth and intellectual development.
S Afri Med J 41 : 1027-1030, 1967.